「IT未経験はやめとけ」という言い方をよく見ます。ただ、その理由が何で、どこまで数字の裏があるのかを並べたものは少ない。 ここでは言われている理由を5つに分け、公開データと公的資料だけで1つずつ確認します。 体験談は使いません。
先に結論
| 言われている理由 | データで確認した結果 |
|---|---|
| 未経験の枠が少ない | 当たっている。 IT技術職で「職種未経験歓迎」は 5.8%。全職種は 22.7% |
| 入っても下からのスタート | 公的資料にそう書いてある。 中途未経験は下から2番目の等級から、という企業例 |
| SESで客先常駐になりやすい | 構造としては当たっている。 ただし「SESなら誰でも入れる」は逆 |
| 年収が上がらない | 入口の職種による。 20代のITは全職種より 33万円高いが、ヘルプデスクは最下位帯 |
| いま求人が減っている | 時期による。 2025年は9か月連続で前年割れ、2026年は反転した |
理由1「未経験の枠が少ない」— 当たっている
2026年9月17日に、求人サイトの検索結果に出る件数をそのまま記録しました。
| 条件 | 件数 | うち「職種未経験歓迎」 | 割合 |
|---|---|---|---|
| doda IT技術職 | 49,980件 | 2,897件 | 5.8% |
| doda 全職種 | 289,161件 | 65,530件 | 22.7% |
ITの未経験枠は、全職種平均の4分の1です。 「未経験歓迎」の求人が多く見えるのは母数が大きいためで、割合としては小さい。 ここは、言われている通りでした。
ただし枠の中身は職種で偏ります。 2,897件を職種の中分類で数えると、最も多いのは業務系アプリケーションエンジニア・プログラマの 1,112件で、インフラエンジニアが 782件、サポート・ヘルプデスクが 652件でした。 1件の求人が複数の職種に分類されるため、各職種の合計は 2,897件を超えます。割合として足し上げることはできません。
出典: doda IT技術職・同 職種未経験歓迎・全職種。2026-09-17 の表示件数
理由2「入っても下からのスタート」— 公的資料にそう書いてある
厚生労働省が2024年3月に公表した調査に、企業へのヒアリングがそのまま載っています。
- 未経験の中途採用者は「基本的には全員育成枠でもあるアプリケーションエンジニアと呼ばれる職種で採用し、一定期間経過後、別の職種に異動」する企業の例(p77)
- 「中途未経験者は下から2番目の11等級からスタート」する企業の例(p78)
これは「やめとけ」の根拠というより、入口の設計そのものです。 育成枠があるから未経験が入れる、という関係でもあります。 ここで確認すべきなのは、下から始まること自体ではなく、そこから何年でどの職種に移れるのかが求人票や面談で説明されるかです。
出典: 厚生労働省「IT・デジタル人材の労働市場に関する調査」令和6年3月 PDF p77〜78
理由3「SESで客先常駐になりやすい」— 構造は当たっているが、逆の事実もある
日本のIT人材は、発注する側ではなく受注する側に寄っています。
- IPA の集計では、日本のIT人材の 73.6% がIT企業に所属。米国は 35.1%
- 業界団体 JISA の統計では、主たる業務は受託のソフトウェア開発 48.0%、SI 26.0%、自社プロダクトは 2.0%
受注側に人が多いほど、客先に出る形が増えます。ここは構造として当たっています。
ただし「SESなら誰でも入れる」は、資料の中では逆でした。 同じ厚労省の調査で、未経験を育成枠で採用していると答えたのは元請けのSIerです。 最終下請けのSES企業は「新卒の未経験者では受注が難しく、3年程度の研修が必要だが、その間給料を支払い続ける企業体力もない」と答え、未経験を採れていないと述べています(p79)。
出典: IPA DX白書2023 追補(2020年国勢調査ベース)/JISA 情報サービス産業 基本統計調査 2024/厚生労働省 前掲調査 p79
理由4「年収が上がらない」— 入口の職種による
| 年代 | ITエンジニア | 全職種 | 差 |
|---|---|---|---|
| 20代 | 398万円 | 365万円 | +33万円 |
| 30代 | — | — | +65万円 |
| 40代 | — | — | +132万円 |
20代の時点で全職種より低いわけではありません。 差は年代とともに開きます。 一方で、入口として件数の多い職種の中に、年収帯が一段低いものがあります。 職種別ではヘルプデスクが 362万円で最下位、最上位はプロジェクトマネージャーの 707万円でした。PM は実務経験を積んだ先の職種で、未経験の入口ではありません。
つまり「年収が上がらない」は、IT全体の話ではなくどの職種から入るかの話でした。
出典: doda 平均年収ランキング(2024年9月〜2025年8月・約600,000件)
理由5「いま求人が減っている」— 時期による
| 時期 | doda IT・通信 求人倍率 |
|---|---|
| 2024年12月 | 8.33倍 |
| 2025年4月 | 6.63倍 |
| 2025年7月 | 6.27倍 |
| 2025年12月 | 7.74倍 |
| 2026年7月 | 7.06倍 |
2025年は4月から12月まで9か月連続で前年割れでした。2026年5月に前年超えへ反転し、7月の全体の求人数は前年同月比 +17.2% です。
ただし国の統計では別の向きも出ています。厚生労働省の一般職業紹介状況(令和8年7月)では、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は 1.34倍(職業計 1.05倍)で職業計より高い一方、前年同月より 0.13ポイント低く、求職者は 6.3% 増えています。
2つの統計は対象が違うので、どちらか一方だけで良し悪しは言えません。 「減っている」も「回復している」も、どの統計のどの時点を見るかで変わります。
出典: doda 転職求人倍率レポート(各月発行版)/厚生労働省 一般職業紹介状況(令和8年7月分)参考統計表7-1・7-2
データからは言えなかったこと
- 「未経験は全員SESに行く」 — SESで働く人数を直接示す公的な統計は見つかりませんでした。分かるのは業界の構造までです
- 「何年で抜けられる」 — 等級や異動の時期を横断的に集計した公的データはありません。企業ヒアリングの個別例だけです
- 「やめとけと言う人の割合」 — そもそも測定されていません
この3つは、断定している情報を見かけても裏が取れません。
では、何を確認してから決めるか
- 求人票の「就業場所の変更の範囲」 — 2024年4月から記載が義務です。「クライアント先」「会社の定める場所」とあれば客先常駐の可能性を示します。「勤務地:プロジェクト先による」しか書いていない求人は、この改正後の書き方としては情報が足りません
- 入口の職種 — 同じ「未経験歓迎」でも、業務系アプリ・インフラ・ヘルプデスクで年収帯が違います
- 相談先の対象条件 — エージェントには年齢と地域の条件があります。外れていると、そもそも紹介につながりません
- お金をかけない入口 — 公的な職業訓練は受講料無料で、要件を満たせば月10万円の給付があります
「やめとけ」かどうかは、この4つを自分の条件に当てはめてからでないと決まりません。
出典: 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」リーフレット/同 ハロートレーニング・求職者支援制度